お茶漬の味

小津安二郎の「お茶漬の味」を見た。見たというよりは、スマホを眺めながらダラダラ流し見していただけなのだが。メインキャラクターの夫婦がいるわけだけれど、地味で穏やかな夫と派手で奔放な妻というような組み合わせである。妻は夫に尽くさなければいけないなどとは全く思わないが、海外出張に行くときの見送りくらい来てもらいたいもんだなあと自分なら思いそうである。寂しいだろうなあと思う。しかし、この夫は別に構わないような感じで、これからは夫に黙って遠出したりしないと悔い改めてみせる妻の前でも「いいんだよ」「君らしくていい」みたいなことを言っている。関心が薄い、というか独立している、というか、そういう感じなのだろうか。お茶漬を食べる夫に対して妻がそんな食べ方は嫌いだからやめて下さいと怒る場面では、夫は自分の嗜好をはっきりと主張するのである。夫からはどこか「あなたはあなた、私は私」というような冷ややかさを感じなくもない。妻も同様で、だから夫を置いて一人で遊びまわったりもしているのかもしれない。そんなバラバラな二人が、夜遅くの静かな台所で一緒にこそこそと夜食を探し、ちゃぶ台を囲んでお茶漬をさらさらいく、というところが、まあいいのだろうなあ。ぬかみそのにおいがするわ、とかいって妻が夫に手のにおいをかがせるところとか、いいよねえ。

いや、そんなことが書きたかったのではなくて、まあ、この妻がかつて交際していた女性を思い出させるのである。私はこの夫のようにはなれなくて、彼女を少しでも自分の思い通りにしたくて、もだえ苦しんでいた。この夫のようにある種の無関心さ、そして、その裏面である優しさを持てればよかったのだろうが、おぼれていた。そいうことを思い出させる映画だった。

しかし、妻はお茶漬が嫌いではなかったのだろうか、なぜ最後のシーンではおとなしくお茶漬を食べているのか、そういう和合の在り方ということなのだろうか。夫は絶対にお茶漬を食べるんだという雰囲気だったが、結局、妻が夫の包容力に包まれなびくということだったのだろうか。